恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「陽妃。おれさ、ずっと怖かった。ひとりぼっちになる事が怖くてさ、たまらんかったんだしよ」


あたしも同じだ。


あたしも、怖かったんだ。


また、誰かに裏切られるんじゃないかって、また、大切なものを失ってしまうんじゃないかって。


いつだったか、おばあが言っていた。


あたしと海斗は同じ傷を持っているって。


それは、きっと。


大切なモノを失って、信じることが怖くなってしまったことじゃないかと思う。


目を閉じてそんな事を考えていたら、ふと、おばあに言われたことが耳の奥で蘇えった。


――失うことを怖れてばかりおったら、カフーや訪れねーらんよ


カフー。


幸せ。


――カフー、アラシミソーリ


ぽう、と心にロウソクのような火が灯ったような気がして、


「……カフー……アラシミ、ソーリ……」


あたしは呟きながら、ゆっくりと目を開けた。


「何か? 今、何て言ったんか、はる……」


ざあーっ……。


海斗の声をかき消すように吹いた波風が、ぴたりとやんだ。


「海斗」


静かになった辺り一面。


まるで、時が止まったみたいに静かだ。


穏やかに凪ぐ夜の海の中で、あたしたちはどちらからともなく向かい合い、見つめ合った。


黒真珠のような光沢のある、瞳。


海斗の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。


「……これ」


あたしはショートパンツのポケットからストラップを取り出し、海斗に差し出した。


ぽう。


「これ、ありがとう」


手のひらの上で蛍のようにぽわっと水色に発光するちゅら玉を見て、海斗が目を見開く。


「すっごく、嬉しかった。大切にするね。ありがと……」


もう一度、ありがとうと声を絞り出すと、淡い光越しに海斗が微笑んだ。


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