恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「海斗……ずっと一緒にいよう」


あたし、このひとの全てを受け止めたくて、もがいていたんだ。


受け止めたくて。


だから、あんなに苦しかったんだ。


「一緒にいようよ……これから先も、ずっと」


「陽妃」


「あたし、海斗がいないと困る」


海斗の指先がすっと伸びて来て、あたしの頬を伝う涙をすくい取り、そのまま髪の毛をすくように滑り込んでくる。


「あのさ、陽妃」


ひとつお願いがあるんやしがね、と海斗が潤みがちな瞳を落としてきた。


妙に色気があって、くらくらした。


「何?」


見つめ返すと、海斗は目に涙をたっぷりためながら言った。


「陽妃は、見たことあるんか……雪」


「……あるよ」


東京で、何度か見たことがある。


はらはら。


ふわふわ。


鉛色の空から舞い降りてきた雪は、積もることなく、儚く消えてしまったけど。


「綺麗だった」


「そうかね」


すると、海斗は片方の目からポロと涙をこぼして、微笑んだ。


「おれも、いつか……見てみてーらん」


陽妃、と海斗が真っ直ぐに見つめてくる。


まだ声変わりして間もない不安定な、でも、低い男の声で海斗は言った。


「いつか……一緒に、雪を見に行ってくれんかね」


それはきっと、海斗が望んでいることだ。


あたしは頷いた。


「あたしも、見てみたい。海斗が生まれた街」


「……ありがとう、陽妃」


海斗の親指があたしの下唇をなぞる。


つめたい感触に背中がぞくぞくした。


「なんて顔するんか……」


「……え」


海斗の瞳にクラクラした。


中学生がするような目つきとはかけ離れ過ぎて、艶っぽくて。


「陽妃。今、自分がどんな顔しとるか……分かるか」


「あ……の……海斗……」


なんて強い瞳なんだろう。


不思議で、魅力的で。


強烈で、凄まじい、磁力。


感電したら、きっとこんな感じなんだろうか。


「嫌なら突き飛ばしてくれてもかまわんよ」


海斗が右手で硬直するあたしの頭をゆっくり引き寄せる。


もう、抗うことなんてできなかった。

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