恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「はぁーーーーーっさぁーーー!」


廊下から雄叫びのような声と共に、ドタドタと騒々しい足音が迫って来た。


「大事件さぁーっ!」


と、血相を変えて2年E組に飛び込んで来たのは悠真だった。


キラリ、とお決まりのように真っ赤なピアスが光る。


「里菜よー!」


窓際にいるあたしたちを見付けるや否や、ずかずかと向かって来た汗だくの悠真が、


「一生のウニゲーさぁっ!」


と里菜に向かって合掌をする。


「化学の教科書かしてください!」


「……またかねーもぅー」


ハアー、と大きな溜息を吐き出しながら、里菜が悠真をギロと睨み付ける。


「忘れ物多すぎさ! やさからテストでビリになるんやっさー!」


「違うさぁ! 今日やたまたまさ! たまたまさー!」


ムキになって食い下がり始めた悠真に、里菜が畳み掛ける。


「悠真は毎日“たまたま”かね。チヌー(昨日)や地理、ウッティー(一昨日)や数学。さーて、アチャー(明日)や何の教科かねぇー」


今から楽しみやんやー、なんて、嫌味たっぷりの口調で。


「エーエー! アチャーや忘れんさ。わんや知的なイキガやんど」


「はっさ。笑わさんけー! 知的なイキガが毎日忘れ物するかね」


ふたりの漫才のような掛け合いを見て、クラスメイトたちがゲラゲラ笑った。


「ぬー!(何)見世物じゃねーらん!」


ぬー! ぬー! ぬー! 、と手当たり次第に近くにいる人にケンカを売るような態度をとる悠真の頭を、


「やめなっさー! バカか!」


鞄から取り出した化学の教科書で里菜がベシッと叩く。


「あがっ! 何す――」


「ほら、持ってはーれー(行け)。予鈴が鳴ってしまうよー」


「いーやぁ」


差し出された教科書を受け取り、


「里菜や神様だねぇ!」


赤いピアスを輝かせながら、悠真は騒々しく教室を飛び出して行った。

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