恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「じゅんに失礼なイキガやっさ。悠真はよー」


からからと笑いながら、里菜が窓の外を眺めている。


「自分を何様やと思っちょるんかねぇ」


もうこんなチャンスや二度とねーらんよね、バカさぁー、なんて。


ね、と里菜に話を振られ、あたしは内心戸惑いながら苦笑いした。


それが精一杯だった。


悠真の過去を知ってしまった手前、そうだね、なんて軽々しく笑い飛ばすことはできない。


「やしがさ」


と早穂も頬杖をつきながら言う。


「悠真くん、なんで彼女つくらねーらんのかね。一生、つくらん気かね」


「できねーらん。無理さ」


食い気味に冷たい言い方をして、里菜が笑い飛ばす。


「あんなアホに彼女なんかつくれねーらん」


一瞬、微妙な空気が漂った。


「あ……ああ、やさ」


それよりさ、と重くなりかけた空気を察したのか、明るい口調で早穂が話題を変えた。


「里菜こそどうなのさ。里菜や良いひとおらんの?」


そういえば、そうだ。


里菜からそういう類の話題を聞いたことがない。


「……わんのことやいいさ。おらんよ、そんなひと」


ガタ、とおもむろに里菜が椅子を立つ。


「わんの恋人やぁコレさ。エイッ!」


バレーボールのスパイクを打つジェスチャーをしてにっと笑って、


「わっさん(ごめん)、ちょっとトイレ行って来る」


と教室を出て行った。


それから、里菜が戻って来るまでの間、あたしと早穂は昨晩観た音楽番組の話題で盛り上がった。


恋はやっぱり難しい。


何も分かっていなかった。


バレーボールが恋人だと言った里菜の笑顔の下に隠されていた想いを、この時のあたしはまだ何も分かっていなかった。







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