恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
授業を終え、ちょうどいい時間のフェリーに乗って与那星島に帰る。
ターミナルから出ているいつもの時間のバスで集落まで行くと、
「けーたんなー(おかえり)、陽妃」
バス停に制服姿の海斗が迎えに来てくれていた。
「ただいま」
特別、約束をしたわけではないけれど、毎日こうして海斗はあたしの帰りを待ってくれているのだった。
そして、約束をしているわけじゃないけれど、晴れた日はそのまま浜へ散歩しに行くのが日課のようなものになっていた。
黄昏時の浜は静かで、煌めく水面が両手を広げてあたしたちを待ってくれている。
あたしたちはガジュマルの木の根元に座り、おしゃべりをする。
今日、学校でこんなことがあったよ、とか。
内容は本当にどうでもいいようなことばかりだ。
でも、それがあたしにとってはとてつもなく心地の良いもので。
海斗と話している時間がなぜだかとても落ち着けるのだった。
空の袂が赤紫色に染まり、夕陽が水平線の向こうにとろけながら沈み始めた頃だった。
「ん?」
と、海斗が目を細め、海をじいーっと見つめ出した。
「何? どうしたの?」
「何か、あれ……ほら、あそこさ」
海斗が身を乗り出しながら、指さす。
頭上でガジュマルの枝葉が風に揺れてざあっと音を奏でながら揺れた。
「何? どこ?……あ」
なんだろう。
海斗の人差し指が差し示す方向で、キラリと何かが光っている。
水面で何かが揺れ、沈みかけの夕日をチカチカと跳ね返している。
「何かが流れて来よったんや」
見て来る、と海斗はローファーと靴下をべんべん脱ぎ、裸足になって、制服のズボンの裾を膝まで上げ駆け出して行った。