恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「やったね! 行こう、陽妃」


「うん。もう、超お腹すいた。行こう」


「おばあのアバサー汁は最高さー!」


と美波ちゃんがあたしたちの手を引いて走り出した。


あたしたちは最近、ほとんど毎日のようにおばあの家で夕飯をごちそうになっている。


海斗の両親もあたしの両親も民宿が忙しくて、どうせろくな物を食べていないのだろう、とおばあの粋な計らいだ。


「どうだね、陽妃」


ズズ、とアバサー汁を啜りながら、無口なおばあが珍しく自分から話しかけてきた。


「何が?」


最近はもう、おばあの独特な話し方にも馴れて、島の方言も分かるようになってきた。


「新しい高校さ。楽しいかね。友達やぁできちゃんかね」


「うん、楽しい。友達もできたよ。みんな優しいしね、充実してる」


「そうかね」


「うん」


おばあの家は古いうえに、照明も昔ながらの物がそのままで薄暗い。


でも、なぜか妙に落ち着く。


それに、おばあが作る料理はどれもこれも絶品で、何を食べても唸ってしまうほどだ。


「おばあの作る料理はどれも美味しいね」


褒めてもおばあは嬉しそうにするわけでもなく、やっぱりそっけなく「フン」と鼻を鳴らす。


「あたり前やっさー」


憎たらしいくらい、無愛想だ。


でも、最近はこの無愛想さも可愛く思えて来た。


あたしと海斗と美波ちゃんはこっそり目を合わせて、くくく、と笑った。


そんなあたしたちをおばあがギロと睨んできた。


「何かぁ」


海斗が答える。


「おばあや、その無愛想がなくなったら終わりさね」


「かしましいやっさー(うるさい)」


あたしは笑いを堪えて、アバサー汁を掻き込んだ。


なんか、楽しい。

< 257 / 425 >

この作品をシェア

pagetop