恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
おばあの手料理に舌鼓していると、


カタン、


突然、箸を置いて、おばあがすくっと立ち上がった。


「どうしたの? おばあ」


と聞いた、次の瞬間だった。


ガッタン。


その音に思わず背中がビクッと反応してしまった。


その音は、隣のお座敷の方から聞こえて来た。


何……今の物音。


「気にさんけー(気にするな)。やーたちやぁカメーいよさい(食べていなさい)。しぐに戻るさ」


そう言って、おばあは腰を曲げてのしっのしっと隣のお座敷へ入って、スーっと引き戸を閉めた。


気にするなって言われても。


「……何、今の」


何の音だったのかな、とお座敷が気になって仕方ないあたしに、


「気にしなくてもいいさ。いつものことやっさーから」


と、海斗は全く気にしていない様子でアバサー汁を啜り続ける。


でも、やっぱり気になる。


「でもさ、けっこう大きい音じゃなかった?」


とお座敷を覗こうとしたあたしに、海斗が「見るな」と言う。


「見ちゃならねーらん」


あたしは戸に伸ばした手を引っ込めた。


「えっ、なんで?」


「ウシラシさ」


答えたのは美波ちゃんだった。


「ウシラシがあったんやっさ」


「ウシラシって……あの、神様からのお知らせみたいなもののこと?」


ふたりが「やさやさ」と頷き、箸を動かし続ける。


しばらくしてお座敷の戸が開き、おばあが戻って来た。


おばあが座ると、


「おばあ」


海斗が箸を置いて、おばあに言った。


「今度はどんなウシラシか。いいーウシラシかね」


おばあは「フン」と鼻を鳴らし、一度掴んだ箸をまた置いて、落ち着いた口調で答えた。


「良こーねーん(良くない)ウシラシさぁー」


勢い良く動いていた美波ちゃんの箸が止まる。


あたしも箸を置いて、3人でおばあを見つめた。

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