恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「用って、何か」


聞き覚えのある声に、あたしと里菜はほとんど同じタイミングで立ち止まった。


渡り廊下の右手の奥は小さな中庭になっていて、午後の陽射しがたっぷり降り注いでいた。


中庭にはオブジェのように一本の木が立っていて、木陰の先にふたつの人影が見える。


「突然呼び出してごめんなさい。先輩、あの……これ」


今度は緊張感たっぷりの声が聞こえてきた。


中庭を見つめる里菜が小声で言った。


「また……告白されちょる」


「え?」


里菜越しに中庭を覗き込んで、その眩しさにあたしはとっさに目を細めた。


陽射しを跳ね返して、何かが一瞬、小さく発光した。


木陰の先で向かい合っていたのは小柄な女子生徒と、悠真だった。


光ったのは、彼のピアスだった。


「悠真……だね」


と、里菜の顔を見てあたしは言葉を飲み込んだ。


「別にもう、見慣れてしまったさ」


そう呟いた里菜は、様々な感情をごちゃまぜにしたような複雑な表情をしていた。


不安そうで、苦しそうで。


「いつものことやしがね」


今にも泣きだしそうな。


でも、それを必死に堪えているような顔で、里菜は悠真を見つめていた。


里菜……もしかして……。


「読んでもらえませんか」


と女子生徒が悠真に手紙を差し出す。


でも、悠真はポケットに両手を突っ込んだままで、受け取る気配はない。


「お願いします」


その空気に耐え切れなくなったのか、女子生徒は悠真のワイシャツの胸ポケットに手紙を押し込んで、軽く会釈をするとこちらに向かって走って来た。


そして、真っ赤な顔であたしと里菜を横切り、学食がある方向へ廊下を駆け抜けて行った。


話には聞いていたけど。


悠真って本当にモテるんだ……。


突っ立っていた悠真は胸ポケットから手紙を抜き取り、スッと太陽にかざしたあと、近くのゴミ箱にそれを捨てた。


躊躇なく、ポイ、と。


「……あっ」


と反射的に声を漏らしてしまった、次の瞬間だった。

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