恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「陽妃……」


「へ?」


「これ、持ってて」


急に声色を変えて、里菜がずいっとゴミ箱を押し付けて来た。


「えっ、はい」


反射的にゴミ箱を受け取ると、


「どういうつもりかねぇ!」


里菜はドカドカと中庭に飛び込んで行った。


「悠真よー!」


その声に、悠真が弾かれたように振り向く。


「……里菜?」


「どういうつもりかね!」


中庭に飛び込んで行った里菜はゴミ箱に手を突っ込み、悠真が捨てた手紙を拾った。


「悠真や最低さ!」


中庭に感情的な声が響いた。


里菜が悠真を両手で突き飛ばす。


「何するんか!」


よろけた悠真が体勢を持ち直し、里菜を睨み付けた。


「それやこっちの台詞だしよ! 何しよるのさ!」


里菜も睨み返し、悠真の胸ぐらを掴む。


あまりにも突然の意外な展開に、あたしはその場から動くことができなかった。


「あの子がどんな気持ちでこれ書いたのか、分からねーらんの?」


「分かるか、そんなん」


「はーっさ、あきさみよー! 悠真にや心がねーらんか!」


「エーエー。そうかもしれんね! わんやあの子の気持ちなんか分からねーらんしよ」


「あっきれたぁ! 失礼だとは思わないのかね!」


取っ組み合いにでも発展しそうな張りつめた空気。


止めなきゃ。


頭では分かっていても、足がすくんで動けなかった。


「絶対さ、一生懸命書いちゃんしよ! あの子」


読んでやることくらいできるでしょ! 、と里菜が手紙を突き出すと、


「できねーらんしよ!」


悠真はあからさまに顔を反らして里菜の手を振り払った。


「わんや誰のことも好きにならねーらん。それや里菜がいちばん分かっとることやしが!」


沈黙のあと、中庭にガラスが割れるような声が響いた。


「いい加減にしてよ!」


里菜の声がキンキン響いた。

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