恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
こんがりと日に焼けた肌色の若いカップル。


お土産袋を両手にぶら下げた老人。


浮き輪を肩に掛けてはしゃいでいる子供たち。


まだ小さな子供を連れた若い夫婦。


まちわび顔の人たちが押し合いながら、船着場に集まっていた。


次に気付いた時、あたしはターミナルの中を歩いていた。


まるで宙に浮いているみたいだ。


足元がおぼつかない。


「ねぇねぇ、大丈夫かね」


売店のおばあが声を掛けて来たけれど、返事をするのも面倒でぺこっと頭を下げて通り過ぎた。


そして、いつのまにかちゃんといつものバスに乗っていた。


いつもの運転席真後ろの椅子に座り、ぼんやりと窓の外を眺める。


与那星島のあちらこちらにも台風は爪痕を深く残していた。


ええと。


何だっけな。


今日はお父さんもお母さんも、民宿が忙しいって帰って来れないんだっけ。


じゃあ、まずは洗濯かな。


あ、そうだ。


夕飯は何にしよう。


冷蔵庫に何かあったかな。


でも、あたし、料理できないな。


何度目だったのかは覚えていないし、分からない。


「……ねぇねぇ!」


運転手のおじさんの大きな声で我に返った。


「あ……何ですか」


「エーエー、ねぇねぇよー」


おじさんがぬうっと身を乗り出し、真後ろにいたあたしを見て笑う。


「何、じゃないよ。着いたさ。つ、い、た」


「えっ」


バスが停車している。


窓の外を見ると、集落のバス停だった。


「すみませんっ」


鞄から財布を取り出し、あくせくと席を立つ。


「ごめんなさい」


運賃箱に小銭を入れていると、おじさんが顔を覗き込んできた。


「大丈夫かみ?」


「え?」


「ずっとぼんやりしてたからさぁ」


「あ……ごめんなさい」


力無くひょこっと頭を下げステップを下りた時、


「ねぇねぇ」


と呼ばれて振り返った。


「はい?」

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