恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「おばあーーーーーーっ」


あたしはそこに棒立ちになったまま、顎が外れてしまうんじゃないかと心配になるくらい大きな口を開けて、大声をあげて泣いた。


ぎゃあー、と頭のネジが外れたように泣き出したあたしに、おばあが腰を曲げてのしのしと近づいて来た。


「なぁーに泣いちょるかー。わらばーふーじぃやっさーねぇー(子供みたいだね)」


おばあがあたしの腕を摩った。


おばあの手はホッカイロみたいにぬくぬく温かくて。


泣けて泣けて、どうにもならなかった。


「陽妃の好きなアバサー汁つくったやんど。いっぺー(たくさん)つくったからさぁー。夕餉にしようねぇ」


そう言って、おばあはあたしの鞄を拾い、逆の手であたしの手を引き、のしのしと歩き出した。


「しっかり歩きなっさー」


「おっおばあーっ」


「いー。何さぁ」


「おば……おばあああー」


おばあに手を引かれながら、あたしは涙が止まらなかった。


「高校生にもなってぇー、そんなに泣くやつがあるかぁー」


「お……おばあぁぁーっ……」


涙が止まらなかった。


顔中、ぐちゃぐちゃになった。


涙なのか鼻水なのか、わけがわからなかった。


「陽妃がそんなに泣いていたら、美波がびっくりしてしまうさぁ」


泣いても泣いても、どんなに声を上げて泣いても。


あふれてとまらなかった。


このまま喉が枯れて、体がばらばらになってしまうかもしれない。


そう思いながら、あたしは全力で泣き叫んでいた。


「おばぁーっ」


わんわん、子供のように泣きながら、おばあの手を必死に握り返した。


どうしよう、おばあ。


大変なことになっちゃった。


忘れちゃったんだって。


おばあのことも。


……あたしのことも。

< 325 / 425 >

この作品をシェア

pagetop