恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
最近、あたしの朝は早い。


夕餉から帰り、お風呂に入る。


その後は特にすることはないし、観たいテレビ番組もない。


あれこれ考えるのが嫌で、毎晩、無駄に早くベッドに入る。


遅くても20時には寝る。


そのためか、朝は夜明け前に目が覚めてしまう。


とりあえずベッドを出て、窓からぼんやり外を眺めながら夜が明けるのを待つ。


朝、5時30分。


毎日その時間になると、おばあの家からパジャマ姿の美波ちゃんが出て来る。


いち、に、さん。


屈伸運動をしたあと、あたしの家の横を通り過ぎ、美波ちゃんはどこかへ一目散に走って行く。


6時30分前後にはちゃんと帰って来て、何食わぬ顔でおばあの家に入って行く。


そして、またおばあの家から小学校へ登校して行くのだ。


それはもうここ1週間、ずっと続いていた。


おばあはこのことを知っているのだろうか。


でも、何も言ってこないし。


もしかしたら、気付いていないのかもしれない。


始めは知らないふりをしようと思っていたけれど、日を追うごとに心配になっていた。


危険な場所に行っているのではないか。


いつか危ない目に遭ってしまうのではないか。


美波ちゃんの行動に気付いてから8日目の夕方。


とうとう、あたしはおばあに聞いてみることにした。


「ねえ、知ってる? おばあ」


卓袱台を布巾で拭いている美波ちゃんの目を盗んで、台所でご飯をよそったりお味噌汁をついでいるおばあの忙しない背中に、コソコソと話しかける。


「最近、朝早くに、美波ちゃんがどこかに走って行くの。たったひとりで。おばあ、知ってる?」


「さあ。分からん」


おばあはせかせかとお椀にお味噌汁をつぎながら、あたしには見向きもせずしれっと答えた。


「何のことか」


「本当? 本当に知らないの? 毎朝なんだよ。物音とかで気付かないの?」


「知らん」


「本当?」


気付いてるんでしょ? 、とあたしもしつこく付きまとう。
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