恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「本当は知ってるんじゃないの? ねえ、おばあ。ねえってば」


おばあの周りをネズミのようにチョロチョロと付きまとっていると、ついにあたしのしつこさに観念したのか、


「しつこいねぇ」


フン、と鼻を鳴らして、おばあは渋々顔で言った。


「浜さ」


「浜?」


「そうさぁ」


「何よ。やっぱり知ってたんじゃない」


と、今度は何をしに行っているのか聞くと、


「さあね。そこまでは知らんよ」


おばあは丸まった背中をあたしに向けて、今度はおかずを大皿によそい始めた。


しらじらしいったらない。


「オバァはなーんにも知らねーらん」


その口ぶりは明らかにわざとらしく、知っていますよ、と言っているようなものだった。


「何よ。本当は知ってるくせに。おばあのいじわる。だいたいさ、おばあっていつもそうだよね」


ああでもない、こうでもない、とブツブツ文句を言いながらお茶碗やお椀を居間に運ぼうとするあたしに、おばあは言う。


「ウーウー。それだけ文句を言うガンジュー(元気)があんなら、なんくるないさー」


心配することなかったさ、と言われて、思わず立ち止まり振り向いた。


「へ?」


「学校にも行かんし。相当落ち込んでいるのかと思っていたやんしが。それだけガンジューなら一安心やっさー」


おばあはこちらに背中を向け、まだおかずをお皿によそっている。


「そんなに美波が気になるなら、あとをつけて確かめたらいいさ」


そして、おばあは言った。


「わんやぁ、なーんにも知らねーらん」


曲がった腰を拳でコンコン叩きながら。


「アチャー(明日)もいい天気になりそうさぁ」
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