恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
おばあに言われたから。


というわけでは、決してない。


でも、翌朝、あたしは5時前に家を出て、浜へ繰り出した。


毎朝、美波ちゃんが浜へ出向いていると知り、じゃあ一体何をしているのか、それが知りたかっただけだ。


今日も美波ちゃんは浜へ行くだろう。


だから、先回りして確かめることにした。


家を出た時はまだほんのりと夜が残っていた空。


浜へ到着した時には日が昇り、あたりは薄明るくなった。


おばあの言った通り、今日もいい天気になりそうだ。


あたしは浜へ下りて、たまらず目を細めた。


なんて眩しいんだろう。


清らかな朝日を受けて、銀を流したように光る水面。


緩やかな浜風が、寝癖をほどくように、あたしの髪の毛をなびかせる。


浜を縁取るように生い茂る茂みの草花が風に棚引いて、さわさわと音を奏でていた。


そういえば、朝の浜を訪れたのは初めてだ。


あたしはガジュマルの木に近づき、幹にそっと触れた。


さあっ、と枝葉がかろやかに揺れた。


幹に傷跡がある。


あたしが枝で殴ってしまった時のものだ。


底知れぬ後悔が押し寄せてくる。


どうしてあの日。


あたしはあんなことをしてしまったのだろう。


なぜ、感情を抑えることができなかったんだろう。


島の掟を破ったりしなければ、海斗はこんな目に遭わずに済んだのかもしれない。


「……ごめんね」


呟いた時だった。


その気配に気付き、あたしはとっさにガジュマルの木の陰に回り、複雑に入り組んだ太い根元に身を隠した。


案の定、美波ちゃんが現れたのだ。


木の陰から様子を窺っていると、美波ちゃんはこの木に向かって来る。


やばい。


こっちに来る。


見つかってしまう。

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