恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
あたしは反射的にガジュマルの根元にしゃがみ込み、携帯を握り締めた。


音が出たりしないようにマナーモードにする。


物音さえ立てたりしない限り、隠れていればまず見つかることはないだろう。


美波ちゃんの足音と気配はみるみるうちに迫り、あたしが隠れているこの木の前でぴたりと止まった。


あたしは携帯を胸に抱き締めて、息をひそめた。


ざあっ、と朝の風に枝葉が揺れる。


「うきみそーちー(おはようございます)」


ば、ばれた?


とドギマギしながらそーっと覗いてみると、美波ちゃんは木の前にちょこんと正座して両手を合わせていた。


横にはピンク色のビーチサンダルがきちっと揃えて置かれてあった。


木に両手を合わせながら、美波ちゃんが大きな声でしゃべり始めた。


「かむい様、かむい様(神様)」


あたしはその声と、朝の穏やかな潮騒に耳を傾けた。


「うにげーすんどー(お願いします)」


お願い……?


そう言えば、とふと思い出す。


この浜のガジュマルの木には神様が宿っていることを。


「かむい様」


時を割るようにパンと音が響いて、それは美波ちゃんが合掌した音だった。


あたしは木の根に背をもたれて、耳を澄ませながら空を見上げた。


朝の風に揺れる枝葉の隙間から見える、清く誠実な色の空。


眩しくて、眩しくて、目頭が熱くなる。


「かむい様……美波やねぇねぇが好きやいびーん(です)。にぃにぃも好きやしが、ねぇねぇも大好きやいびーん」


泣いてしまいそうだ。


「ねぇねぇや美波を助けてくれましちゃん。気に登って助けてくれましちゃん」


ねぇねぇや美波といっぺー遊んでくれます。


美波を仲間外れにしやびらん(しません)。


美波やねぇねぇの笑っているちら(顔)がニシニシいっぺぇ(すごくすごく)大好きやいびーん。


やしが、最近、ねぇねぇが笑わなくなりましちゃん。


カナサンちらばかりさびら(悲しい顔ばかりします)。


学校も休んでなます(います)。

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