恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「かむい様。美波やねぇねぇに笑って欲しいやいびーん」


ねぇねぇが元気ねーらんのや、きっと、にぃにぃがうらん(いない)からやっさーとうむなます(思います)。


美波、ゆたさん子(いい子)にさびら(します)。


わがままは言いません。


おばあの言うことも聞ちゅーん(聞きます)。


ゆたさん子になります。


「やっさーから、かむい様」


毎朝、何をしていたのかと思えば。


美波ちゃんは、神様が宿ると言い伝えられている気にお祈りを捧げていたのだ。


「美波のうにげぇを叶えてくぃみそーれ(下さい)」


どうしてだろう。


どうして美波ちゃんは、こんなあたしなんかのことをそこまで思ってくれるのだろう。


「どうか、ねぇねぇが笑ってくれますように」


朝の畔に揺れる草花と枝葉。


穏やかな潮騒。


「きっと、にぃにぃが帰ぇーって来れば、ねぇねぇやガンジュー(元気)になるとうむなます」


本当にこの島は、どうしてこんなに優しいのだろう。


海も、空も、風も。


泣きたくなるほど優しい。


「やさからさ、かむい様。うにげーすんどー」


それ以上に、美波ちゃんの気持ちが温かくて。


「へーく(早く)、にぃにぃをねぇねぇに返してくぃみそーれ」


このままじゃ、本当に泣いてしまうかもれない。


「かむい様、かむい様。うにげーすんどー」


声を上げて泣いてしまうかもしれない。


あたしは必死に涙を堪えた。


でも、こんな時に限って思わぬハプニングはつきもので。


泣かないように泣かないようにと堪えているうちに鼻の奥がツーンとして、次第にむずむずして、とうとう堪えきれず、


「……びへっくしゃ」


豪快にくしゃみをしてしまった。


やばいっ。


とっさに口を押えて身を縮込める。


なんだってこのタイミングで……と、後悔してもすでに後の祭り。


「わっ! かむい様がサバチャみしちゃん!(くしゃみした!)」


驚いたその声に背中がギクリと反応した。
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