恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
「これ、里菜のだよ」


「知ってるば。里菜から預かって来ちゃんだしさ」


「里菜から? なに?」


「はあー?」


悠真は大きな溜息を吐き出して、


「わんやパシリじゃねーらんのにさー。里菜がさ、絶対今日中に届けよーさい、って殴りよるからさ」


うりー、とそれをあたしに差し出した。


「何だろ……」


首を傾げながら受け取ると、


「なに言うばぁ。やさそれ、陽妃のいちばん大事なもんじゃねーらんのかみ?」


と悠真も一緒に首を傾げる。


「それさ、教室に落ちてたらしいよ。気を付けなっさー。失くしたら大変だろ。大事な物なんだからさぁ」


「……え?」


大事な、物?


四つ折りにされたタオルハンカチを開いて、その淡い光にはっと息を飲む。


「これっ」


パイル地の上で半透明の光を放っていたのは、ちゅら玉のストラップだった。


「良かったねー。見付けてくれたんが里菜でさ」


どうやら、教室の隅に落ちていたらしい。


壊れてしまった日から制服のポケットに入れていたから、何かの拍子に落としてしまったのかもしれない。


「じゃあ、確かに届けたからね」


うつむいたまま固まるあたしの肩をポンと弾いて、悠真が自転車に向かって歩いて行く。


あたしは顔を上げることができなかった。


どうしても、できなかった。


タオルハンカチがあたしの涙を受け止めて、シミが広がっていく。


淡いはずの光がとにかく眩しくて、眩しすぎて、一気にあふれて止まらなくなった。


遠ざかって行ったはずの足音が再び近づいてくる。


その足音はあたしの前でコツと止まり、悠真の低い声が降ってきた。


「何があった?」


なんでもない。


泣き顔を見られたくなくてうつむいたまま首を振ると、いきなり腕を掴まれた。


その拍子に、はらはらと空を切りながら手から紙が落ちていった。


「じゃあ、何で泣いてるのさ」


強い力だった。

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