恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
全身に触れるその強い力にはっとした時はもう、あたしの体は悠真の腕の中にあった。
「陽妃」
耳元に、悠真の低い声がかかる。
「何があった?」
悠真がいつもつけている香水があたしを包み込む。
深緑のようなブルガリの匂い。
「……は……はなし……」
あたしは必死に悠真の胸を押して離れようとしたけれど、
「何で泣くのさ。いつも泣いてばっかやさ。泣くだけの恋なんか意味ねーらん」
悠真の力は強く心地よささえ感じて、あたしはあっさりと抵抗するのをやめてしまった。
誰かに寄りかかってしまいたかった。
「もう……やだよ」
もう、何にでもいいから、すがりつきたかった。
「……オレじゃダメかね」
ブルガリの匂いがほのかに香るワイシャツに顔を埋めて声を押し殺して泣くあたしを、悠真は包み込むように抱きすくめながら言った。
低くかすれた、戸惑いがちな、優しい声だった。
「オレが陽妃を守ったらダメかね」
悠真の腕の中はあったかくて、広くて、涙を止めることができなかった。
「もう、見てられねーんだしよ。もう……ほっとけねーんだしさ」
初めてだった。
男の人の腕の中で、他の男の人を想って泣いたのは、初めてだった。
「お願いだから……ほっといて」
あたしのことはほっといて。
あと数日で満月になりそうないびつな形の月が、あたしの足元に落ちた紙を照らしていた。
優しい、月明かりに浮かび上がる文字。
そのメッセージを読んだ時、すぐに分かった。
これは台風の日に書かれたものではないかと。
そして、書き掛けのまま、海斗は浜へ行ったのかもしれない。
あのブイを守るために。
約束を、守るために。
それは、10年後に届くはずのメッセージだった。
「陽妃」
耳元に、悠真の低い声がかかる。
「何があった?」
悠真がいつもつけている香水があたしを包み込む。
深緑のようなブルガリの匂い。
「……は……はなし……」
あたしは必死に悠真の胸を押して離れようとしたけれど、
「何で泣くのさ。いつも泣いてばっかやさ。泣くだけの恋なんか意味ねーらん」
悠真の力は強く心地よささえ感じて、あたしはあっさりと抵抗するのをやめてしまった。
誰かに寄りかかってしまいたかった。
「もう……やだよ」
もう、何にでもいいから、すがりつきたかった。
「……オレじゃダメかね」
ブルガリの匂いがほのかに香るワイシャツに顔を埋めて声を押し殺して泣くあたしを、悠真は包み込むように抱きすくめながら言った。
低くかすれた、戸惑いがちな、優しい声だった。
「オレが陽妃を守ったらダメかね」
悠真の腕の中はあったかくて、広くて、涙を止めることができなかった。
「もう、見てられねーんだしよ。もう……ほっとけねーんだしさ」
初めてだった。
男の人の腕の中で、他の男の人を想って泣いたのは、初めてだった。
「お願いだから……ほっといて」
あたしのことはほっといて。
あと数日で満月になりそうないびつな形の月が、あたしの足元に落ちた紙を照らしていた。
優しい、月明かりに浮かび上がる文字。
そのメッセージを読んだ時、すぐに分かった。
これは台風の日に書かれたものではないかと。
そして、書き掛けのまま、海斗は浜へ行ったのかもしれない。
あのブイを守るために。
約束を、守るために。
それは、10年後に届くはずのメッセージだった。