恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
結局、その後、あたしと悠真に進展はない。


一瞬でも心が揺れなかったのかと聞かれたら、頷くことはできないけど。


確かにあの流れのまま悠真に甘えることは簡単にできたと思う。


でも、あたしにはどうしてもそれができなかった。


どうしても。


それからあたしはふたりの前で海斗の事を口にしなくなった。


そんなあたしの様子を察したのか、ふたりもその話題には触れず、あたしをそっとしてくれているようだった。


海斗の事を考えると辛かった。


だから、ただ笑って過ごした。


ひたすら笑って過ごした。


逃げるように現実に背を向けて明るく過ごした。


そうする他に術がなかった。


海斗のことは考えないように予定を作って忙しく過ごした。


「来年やいよいよ3年生さ。陽妃や卒業したらどうするんか? 進学? 就職?」


「まだ決めてない。里菜は?」


「わんも……悠真や?」


「あぁー……わんもやっさー」


「え? でも、悠真はジャニーズ入るんじゃないの?」


「はっさ! やさ! それがあったね! わんやアイドルになるんだしさ!」


「やさからさぁー悠真よー……無理に決まってるんだからさぁ」


「何が無理なんか……あいっ! 陽妃! 今笑ったやっさーろ!」


「わっ、笑ってないよ!」


「……笑っとるばぁーもー」


12月。


沖縄は東京では考えられないくらい暖かい冬だ。


気付けば年の瀬が迫り、年が明けていた。


1月なのに日中は20度前後という気温。


「桜! 信じられない! 2月だよ? だってまだ真冬だよ?」


沖縄の冬空に緋紅色の蕾を3、4つ付けて半開きの鐘状の花が、遠慮がちにうつむき加減に咲いていた。


「桜って普通4月でしょ!」


艶やかな色の寒緋桜を見上げて驚いたあたしに、悠真が偉そうな口調で言った。


「陽妃。沖縄なめんなよ」


「悠真! 何様のつもりか!」


そんな悠真には、お決まりの里菜の一発が落ちる。


「あがっ!」

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