隣の人形
「あ、あるめりあちゃん」
めりあちゃんに気づいて声をかけてきたのは、
さっきまで牛の毛並みをブラッシングしていた。
男の子である。
爽やかな笑顔。
牧場の王子である。
(実際そう呼ばれていた)
作業着は汚いもののその顔は輝いている。
作業着が汚くても心が綺麗なのだろう。
少々演技かかった手のあげかたも様になっている。
「どうしたの?」
「あう、えと…」
しどろもどろになる、
めりあちゃん。
なんという変わり身だ。
多分好きな人の前では、完璧も壊れるんだろうなぁ。
「?お兄さん、あるめりあちゃんのお兄さんですか?」
「いや違うよ。道案内を頼まれてて」
「くす。あるめりあちゃん、方向音痴だね」
なんだか甘い囁きのような声で耳が犯される気がした。