泣き顔にサヨナラのキス
ドタドタと足音がして、伊藤課長と原口係長が事務所に戻ってきた。
席に着くなり伊藤課長が「ちょっと手を止めて訊いてくれ」といつもより低い声で声を掛ける。
伊藤課長の丸顔が、何故だか、やつれて見えた。
「一身上の都合で会社を辞めることになってね。
急で悪いけど、引き継ぎは原口君にお願いすることになった。
これから、バタバタすると思うが、宜しく頼むよ」
「課長、まだ辞めるとは」
沈痛な面持ちの原口係長に「もう、いいんだよ」と伊藤課長。