泣き顔にサヨナラのキス
「……離したくないよ、本当は」
田中君が切ない声色でそう告げると、あたしの手首は自由になった。
「……」
「……そんな顔を見せられたら、フラれるより凹む」
「……ごめんなさい」
それ以上の言葉が見つからなかった。
「もう、行って」
田中君はあたしに背中を向けると、犬でも追い払うみたいに手を振った。
田中君を一人にしてしまうことを申し訳なく思いながら、駅までの道を急いで戻った。
……原口係長に逢いたい。
逢って、キスしたい。
どうして、こんなに好きになってしまったのだろう。