泣き顔にサヨナラのキス

 
「原口係長あの、あたし実は……」


「どうせ、覚えていないんだろ?」


原口係長に呆れたように睨まれると、あたしは途端に情けない気持ちになった。


「……お店を出るまでは、覚えているんですけど、タクシー乗ったぐらいから曖昧で。せっかくご馳走して頂いたのに、すみません」


「別に、いいよ。俺は、楽しかったし」


「家まで送ってもらって……。でも、原口係長はどうしてあたしの家知ってるんですか?」


「ん?教えねぇ」


はははと声を出して笑う原口係長の視線は、前を行く孝太に向けられていて。


それが、何を意味するのかなんて、今のあたしは考える余裕も無かった。




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