泣き顔にサヨナラのキス


あたしが事務所に戻ると、孝太は既に営業に出ていて、ホワイトボードには直帰と記されていた。


今日は、もう会えない。


そう思うと、寂しいようなホッとしたような複雑な気持ちになる。


孝太の不可解な言動への腹立たしさもあって、自分の気持ちを何処にぶつけていいのかわからなかった。


化粧ポーチを手にトイレに向かうと、ちょうど山本さんと入れ違いになるところだった。


ドアを開けて、正面で向かい合う。


何かを言いかけて、言葉を飲んだ。


あたし、何を言うつもりだったのだろう。



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