エア・オッパイ
本文
「君は知っているかい? 男性から見たオッパイの三大要素なるものを」

 指示棒を短く畳み、背中に両こぶしを回す。ベージュの細いスラックスに大きなシワを作りながら、砂川は両手を縛られ、地面から僅かに吊られた若い女性を、足音をたててゆっくりと周回する。

 女はハンカチで目隠しをされていた。口には透明テープが貼り付けられ、頬が上がり、押さえられた唇がまるでピエロのように伸びきっている。抵抗した時に飛んでしまったのだろうか、ある筈の白いブラウスのボタンが無く、そこから薄ピンクに染まった繊維がかいま見えた。

 砂川より若干背が低いと思われる女の目隠しを下げると、吊られているせいであごが上がり、必死に睨み付けている目線は、むしろ砂川を見下しているかのようだ。

「まずは大きさ、突起部の形などの外観的な要素。次に柔らかさ……」

 指示棒を一気に伸ばし、女の右乳房を下から支えるようになぞると、一転して肌けた部分に突き立てた。力を込めると、無抵抗だった乳房が反発し、指示棒の節々にある球状のフックが先端から解かれ、カチカチと縮んでゆく。

「そして、忘れてはならないのが、温もりだ」

 指の力を抜き、指示棒が落ちる。両乳房を手のひらに納めると、高尚だが脂の溜まった砂川の鼻が、香りを吸い込みながら女の胸元に沈む。

 ギシギシとしなるように女の体が動くが、砂川の手がそれを許さない。酸欠に陥ったかのように、息遣いだけが荒くなる。

「フウム。やはり君は完璧なサンプルだった。僕がどれほど狂喜しているかなど、誰も理解できまい」

 いつの間にか閉じていた目を、砂川はゆっくりと開く。握りしめていたのは──取り外したばかりの見覚えのある白いカーテンだった。天井の梁を跨ぎ、固い結び目が見えた。

『ああ……そうだった。おかしいな。思い出したよ』

 砂川はスカーフのようにぐるぐると自分の首に巻き付けた。一本足の丸テーブルの上に、砂川は腰を屈めて立っていた。少しでも中心から外れたら、転倒してしまうだろう。

 わざわざウォールナットを指定し、探し求めたテーブルだった。それが、自らの処刑台になるとは、思いもしなかった。

『クク……』

 砂川は不器用に嘲った。口にテープが貼られている。壁の鏡に写っていた姿は、まるでピエロそのものだった。
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