群青の月
「……誰が『上着貸して』なんて言ったのよ?」


相変わらず上から目線の柚葉は、どこか苛立っているようにも見える。


「でも、寒いんだろ?」


「寒いから、『今から帰る』って言ってるじゃん」


ぶっきらぼうに答えた柚葉は、俺の胸元にスーツを突き返した。


「まだ帰るなよ」


「このままここにいたら、普通に凍死するっつーの。それ以前に、アンタと一緒にいる意味がわかんないし。とにかく、あたしは帰るから」


冷たい口調の柚葉が言い終わる前に勢いよく踵を返したから、俺は慌てて彼女の手首を掴んでしまった。


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