群青の月
「思い出してくれて良かったよ」


呆然としている俺の耳に届いた畑野の声は、何か嫌な事を企んでいるような口調。


その声音に全身が強張って、芽生えたばかりの不安が一気に大きくなるのがわかった。


「レンタルショップで会った時も動じる様子がなかったし、俺の事なんて完全に忘れてたよね?俺は君の顔を見て、すぐに思い出したのにさぁ」


どこか楽しげな声がやけに耳に付いて、膨大になった不安を更に煽る。


「……あ、たしに何の用?」


震える声で訊いた柚葉の背中からは、明らかに大きな動揺が伝わって来た。


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