群青の月
「別に、“用”って程の事でもないんだけどね」


一緒に仕事をしていた時に聞き慣れた、余裕のある歌うような口調。


反して俺の中に僅かに残っていた余裕は、畑野が話す度に夜の空気に奪われていく。


「柚葉ちゃん、俺と付き合わない?」


「……は?」


「あっ、もちろん崎本とは別れてね」


畑野の言葉に驚いたのは、俺だけじゃなかった。


「な、んで……?」


短く尋ねた柚葉の声には、隠し切れなかった動揺が溢れている。


すると、畑野が楽しげにクスッと笑って、その笑顔のまま続けた。


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