群青の月
意を決して深呼吸をした後、ゆっくりと口を開く。


「柚葉」


何よりも大切な人の名前を呼んだ瞬間、ビクリと肩を震わせたその背中…。


その光景を捉えた瞳を一度閉じてから歩き出し、硬直する柚葉の体を解すように頭をそっと撫でた。


「帰ろう」


「……っ!」


優しく声を掛けると、不安げな瞳が俺を見上げた。


そこに浮かんだ涙は、きっと俺の為のもの…。


そして…


瞳に不安を覗かせる理由は、間違いなく畑野との事だろう。


俺は柚葉の不安を取り除くように、ただ優しく微笑んだ。


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