群青の月
部屋の前に着いた時、柚葉は俺を見上げた。


不安そうな顔に笑みを向けると、彼女が意を決したようにスライド式のドアをゆっくりと開けた。


途端に視界に広がった部屋の中を、“病室”と呼ぶのが正しいのかどうかはわからない。


だけど、清潔で淡い緑のカーテンや壁紙に包まれたそこは、限りなく病室に近かった。


ベッドで横になっている柚葉の母親は、どう見ても柚葉から聞いたような酷い事をして来たとは思えない程に弱々しく、穏やかな表情をしていた。


「柚葉……」


それでも、柚葉を呼んだ声には力がこもっていた。


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