そして、恋をする。
自分の左手を
眺める。


震えてる…?

何で…?


左手のゆっくりと
広げてみる。

震えは収まったが、
手のひらは
じっとりと
汗をかいていた。


「だから言ってんじゃん。」

彩夏が不意に
話しかけてくる。

「…え?」

「私との会話を遮ってまで、挨拶をした理由。
左手の震えと汗。全部好きだからだよ。」

「何で?関係あるの?何で?!」


わからない。

何で震えてたの?

怖い…!


「だから、緊張だよ。本当に分かってなかったんだね。」

あきれたように
彩夏が私を見る。


緊張…。

いつも彩夏が
大西君と
話すとき、

すごく
緊張してて
パニくってた。

あれと
一緒…なの?


ガラッ


先生が
入ってくる。

あわてて
前に向きなおる。

背中で視界が
埋め尽くされる。


どくっ!


胸が苦しくなる。

心臓じゃない。
もっと深く、
胸の中心の部分が
激しく脈打つ。


息苦しい。


でも、
なんだか
胸が満たされてる。



これが、

恋?




息苦しさに
胸を押さえながら

坂口君の
背中越しに、

自分に
芽生えていた
新しい気持ちを、

何度も何度も
かみ締めていた。
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