そして、恋をする。
「ねえ。せっかくだし、自己紹介でもやろうよ!」


梓さんが
明るく提案する。

あの真剣な目は
私が気付くと
同時に、

優しい目に
戻っていた。


「いいんじゃね?」


私の正面に
座っている
男の子が
賛同する。

席は、隣同士が
向き合う形に
なってるから…
私の隣の人か。


「じゃあ、言いだしっぺの私から!
小林梓です!趣味・特技は…運動系全般かなー。」

「はは。凄いね。」


坂口君と
小林さんの机に
くっつく形で

黒板から見て
後ろ向きで座ってる
男の子が、
爽やかに笑った。

本来は小林さんの
前の席である。


「じゃあ、次は俺!俺は高橋圭(けい)。
水泳部に入っていて、小学校から水泳をやってきた。」

「へぇ。」

「すごーい!」


爽やかな男の子と
小林さんが
同時に声を
あげる。


「次は裕子の番だよ!」


突然
声をかけられる。

すでに
呼び捨てにされて、
かなり違和感を
覚える。


「あ…。沢村裕子です。よろしく…。」

「ちょ、ちょっと!それだけ?趣味とか、好きなものとか無いの?」

「え?好きなもの…?」


好き…


その単語に
少し反応している
自分がいた。

『好きなものは坂口君です』

まぁ、
言えるわけ無いけど、
想像しただけで
笑ってしまった。

少し俯き、
笑いをかみ締め
自己紹介を
続ける。


「好きなもの…そうだなぁ。…あったかいものとか?」


「あったかいもの?!」
「あったかい?」
「何それ?!」


同時に
叫ばれた。


「え?何?何かおかしかった?!」


慌てる。


「…おかしいだろ。」


今まで一言も
口を開かなかった
坂口君が一言
ポツリと呟いた。
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