そして、恋をする。
「違う!」


咄嗟に
答えていた。

真意は分からない。

けど、
彼のせいじゃない。

彼のせいに
したくない…!

心からそう思った。

目を見て
そう断言する。


「…そうか。」

「そう!これは…椅子の木に引っ掛けて切ったの!」


その場の思いつきで
答える。

…本当に
そうなんじゃないか
と思った。


「だから、坂口君は関係ないよ!
でも、坂口君のくれたパン食べてた時だったもんね…。
もしかしてなんか言われた…?」

「…いや…。」

「そう?ならいいんだけど…。あ、パンありがとう。」

「別にいい。…それより、血止まってないけど。」


自分の指を
見る。

制服の袖まで
真っ赤に
なってしまった。


「う、うん。大丈夫。これから病院行くから!」

「病院…。」

「うん。多分縫うって先生が。」


坂口君の顔が
さらに険しくなる。


「だから5時間目はさぼりかな。」

「分かった…。」


それだけ言うと、
坂口君は
くるりと後ろを向き、

保健室から
出て行ってしまった。


ガラッ…


静寂が
保健室に訪れる。


「あら?さっき人来てなかった?」


奥の部屋で
病院に電話していた
保健の先生が
顔を出す。


「あ、もう帰りました。」


そう言いながら

ふと気がつく。


坂口君…。


私の事
心配して
きてくれたんだ…。


保健室のドアを
見つめる。


まるで、
さっきの出来事が
夢であるように。

最初から
坂口君が来てなかった
かのように。



そこに坂口君が
いた面影は、

何一つ
残っていなかった。
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