そして、恋をする。
「ねーねー。
指本当に大丈夫?
俺のノート貸してあげようか?」


休み時間が終わる寸前に
席についた私に
隣の席の高橋君が
話しかけてきた。


ギクリ。


「あ、いいよ。大丈夫。
心配してくれてありがとう。」



坂口君のノートを
手放したくない。


私のわがままだし、
もしかしたら坂口君にとって
迷惑かもしれないのに、


それでも譲れない。



気持ちを悟られないために
少し早口で答える。



「そっか。怪我は左手だしね。
また俺に手伝える事なら、
何でも言ってよ。隣なんだし、
力になるよ!!」

「うん。ありがとう。」



大して感情もこめず
さらりと受け流す。




この人は知らない。



私が左利きなのを知らない。



別に知らなくてもいい。



坂口君だけ知っててくれれば
もう他はどうでもいい。




何に関しても
彩夏に大しては
どうでもいいとは
思わないけど、



他の男が力になろうが
なるまいが
はっきり言って
どうでもいいと思う。


いや、
思ってしまう。






恋は人間を、

わがままで
自己中心的で
感情的な生き物に
してしまうものだと

初めて知った。
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