そして、恋をする。
毎回授業が終わる度に、

後ろを向いては
ノートをすっと
机の上に置いて席を
立っていった。


最後の授業は
現国だった。


いつもは自分が
真剣にノートを取るために
見れなかった前の席が

今日はずっと
見ている事が出来た。


真剣にノートをとり、
たまに窓の外をボーっと
眺めたりする坂口君は、


私の中で輝きを増し、


心が何かで
満たされていった。




現国の授業が終わり、
またノートが差し出されたとき、




「ありがとう。」





真剣に言葉にしてみた。



他に伝えたい事や、
伝えなければいけないことは
あったはずだけど、


素直に
その言葉だけを
伝えたくなって、


まっすぐ目を見て、
真剣に感謝の意を
相手に伝えた。



「…ん。」

「今日このままコピーして返したほうがいい?
それとも今日持ってかえってもいい?」

「持って帰ってもいいけど…。書けないのに?」

「うん。坂口君、一生懸命書いてたから、コピーじゃもったいないなと思って。
家に持って帰って、右手で書き写そうかなって。」

「え?本気で言ってんの?」

「うん。」

「かなりの労力だと思うけど。」

「そうだね。」

「まぁ、別にかまわないけど…。…実はコピー代ケチりたいとか?」

「それもあったり、なかったり??」



ずーっと一日中
坂口君の背中を見ていて、
感覚が麻痺したのか、

ほとんど意識しないで、
自然に話が出来た。


自分の思いも
自分の言葉で素直に
表現して伝えられた。
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