割り切りの恋人たち
 ふたりで、駅前のラブホテルに向かう。
 弘美は俺の左側を歩く。
 弘美はいつも俺の左側を歩いていた。
 髪をかきあげる仕草、俺の歩調に合わせてくれるやさしさ、そしてトーンの低い声。
 何もかもがあの頃のままだった。
 道中はあの頃の恋人気分そのままだった。
 あの頃、この道を歩いた記憶がある。
 俺も弘美もまだ高校生だった。
 明日に明るい希望を抱いていた毎日だった。
 そして毎日が楽しく充実していた。
「あたし、直行と結婚したいな」
「えっ? なんだよいきなり……」
「だってあたし、直行のことが大好きだから……」
 そう言って弘美は俺に口付けをした。
 そして「抱きしめて……」といった。
 ふたりは人々が行きかう歩道の端で、人目など気にせずに抱き合った。
 俺は弘美のことを強く抱きしめた。
 弘美は俺に向かい「愛してる」と言った。
 だから俺は「ありがとう」と答えた。
 ふたりはその場でしばらく見つめあい、微笑みあった。
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