割り切りの恋人たち
 俺は弘美に封筒を渡した。
 だが弘美は笑顔で、それを俺に渡し返してきた。
 だから俺は言った「だって割り切りなんだから」と。
 すると弘美は泣きながら笑顔を作っていた。
 そして俺に飛びついてきた。
「あの頃と変わらないね」
 そう言うと弘美は両足の踵を挙げて瞳を閉じた。
 ふたりは口付けをかわした。
 こぼれおちていく弘美の涙。
 もう2度と会えないと思っていた、ふたり。
 神様はいる。
 いや、いないのかもしれないが、俺はなんとなくいるような気がしていた。
 弘美は俺の首に手を回してくる。
 そして涙に溢れた瞳をそっと開けた。
 そして微笑んだ。
 あの頃の俺の1番の理解者だった弘美。
 俺がいつも顔中にアザを作ってくると、いつも泣いていた弘美。
 学校からも爪弾きにされ、周囲の大人たちからは白い目でみられ、だけどそんな出来損ないの俺を暖かく包み込んでくれていたのは弘美だった。
 俺はおちこぼれだったけど、弘美だけに対しては1度も殴ったことは無かった。
 男同士では何度も殴り合ってきたし、気を失うほどまで戦ったことはあった。
 弘美とはどんなに口げんかをしたって、どんなに会わないときがあったって、暴力だけは振るうことが出来なかった。
 女を殴るのは卑怯者のすることだと、あの頃の俺は思っていたからだ。
 そして弘美は言った。
「もうケンカはしてないんだろうな」
「当たり前だろ、俺は今は社会人。大人の良識ぐらいわきまえているさ」
「よしっ、それなら今日、相手してあげる」
 そういうと彼女はいきなり服を脱ぎ始めた。
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