割り切りの恋人たち
 そして閉まった筈の扉が勢いよく開いた。
「ねぇ一緒にはいろ」
「えっいいのかよ。ぶっ飛ばさないだろーな」
 俺がそう言うと弘美は笑っていた。
 俺は弘美の許可を得たので浴室に入る。
 俺は18年ぶりに弘美と一緒に風呂に入る。
 そしてある事に気づいた。
 そう、それは、背中や腕などにアザがあることだった。
 DV……。
 俺は直感的にそう思った。
 弘美がなぜ俺と一緒に風呂に入りたがらなかったのか、そしてなぜ暗がりを好んでいたのかが、この時すべて謎がとけた。
 そしてそのアザをみた時に、俺は怒りのような感情がこみ上げてきていた。
「ちくしょう」
 俺が小声でそういうと、「なんか言った?」と弘美が言った。
「何も言ってないよ」と俺はとぼけてみせた。
 俺はあの頃本気で弘美のことを愛していた。
 男同士で喧嘩してアザを作ったことは何度もあった。
 だが、しつこいようだが、弘美を殴ったことなど、俺の記憶の中には無い。
 ふたりで浴槽につかる。
「あたしさ、この入浴剤好きなんだよね~」
「へぇそうなんだ」
 俺は一応そう答えておいた。
「よーし、上がろうぜ」
 弘美がそういいながら浴槽を出る。
 続いて俺も浴槽を出てふたりで裸のまま抱き合う。
 そこに言葉は必要なかった。
 言葉なんてなくたって全て通じ合っていた。
 俺は弘美の言いたいことが手に取るようにわかっていたから、何も聞かず、そしてなにもしゃべらずにいた。
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