ある夏の物語
帰り道。
久々に一緒に帰った。
少し日が落ちて涼しくなった夕時、あたしと美鶴は並んで歩いた。
「まだ進路調査票、出してないんだって?」
嫌な顔をするだろうなとわかっていながら、あたしは敢えて切り出した。
するとやっぱり美鶴は苦い顔をして、「郁には関係ないよ。」と言った。
だから、あるんだってば。
これ以上美鶴がいじめられるのを見ていたくないのよ。
「美鶴はさ、どうしたいの?」
あたしは努めて明るい口調で言った。
美鶴は無表情で空を見上げる。
「さぁ。」
「さぁって…。
夢、あるの?」
しばらく、美鶴は黙った。
無視されたのかと思った頃、ようやく口を開く。
「俺は、普通の人生を歩みたい。」
「普通の、人生?」
「うん。
たとえば、サラリーマンにでもなって、結婚して。」
そうすればいいじゃない、と言うと、美鶴は他人事のように「そうだね」と言った。
「親は何て言ってるの?
進学か仕事、どっちにしろって?」
どうやらそれは触れてはいけなかったことらしい。