ある夏の物語
みるみる、美鶴の顔が強張った。



本人はそれに気付いていないようで、必死になにか答えを探している。



あたしは慌てて話題を変えた。



「ゴメン、そういえばさ…。」



焦ってペラペラと一人でしゃべっていると、美鶴の顔色がよくなってきた。



…美鶴、なんでさっきあんな顔したの?



あたしは頻繁に美鶴の顔色を窺った。



「郁。」


「ん?」


「なんでもない。」


「何よ。」



何度訊いても、美鶴はなんでもないと笑った。



変なの。



何か言いたいことがあるなら、言えばいいのに。



もう6年の付き合いになる。



中学の最初の方はあまりしゃべらなかったけど、最近は打ち解けてくれてると思ってるのに。



…冬に話したときのことが思い返されて、あたしは慌てて頭を振った。



そんなあたしを、美鶴は不思議そうな顔で見つめていた。














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