ある夏の物語
HRで、進路調査票が回収された。
あたしは不安な気持ちで美鶴を窺う。
やっぱり、提出していなかった。
どうしてなの。
どうして問題が起きるとわかっていて、何も書かないの。
思った通り、点検をした担任は眦を吊り上げて怒った。
「上原!」
教室はしんとなる。
みんな、またかといった感じだった。
「立て!」
びくりと震えるくらいの大声にも、美鶴は冷静に対処した。
みんなが恐々と美鶴の動きを目で追う。
「どうして何も書かない!?」
いつも、美鶴は答えない。
でも、今日は違った。
「未定だからです。」
疲れた声だった。
あたしは驚いて目を見開く。
答えたことも驚きだったし、それになにより美鶴が弱って見えたからだ。