ある夏の物語
ぶんぶんと力いっぱい首を振る。


「郁、言うこときいて。」


「嫌!
このまま好きなようにはさせない!」


「…好きなようにって?」



探るような声。



あたしは思い切って言った。



「違ったら、思い切り殴り飛ばして。
…死ぬ気でしょ。」


「…ほんっと、郁って聡い。」



当たってた…。



嫌な予感は大抵あたる。



「やめてよ、そんなの。」


「もう、疲れたんだよ。」


「そんなこと言わないでよ。」



ぎゅっと美鶴の胸に顔を押し付ける。



「この先、苦労することが目に見えてるんだよ。
逃げたいんだよ。」



初めて聞いた、美鶴の弱音。



こんな形で聞くなんて、嫌だ。



「でも、政府からの補助とか、あるし。」


「そんなの、俺より悲惨な状況の人間のほうが多いんだから…。」


「じゃあ、もっと悲惨な状況の人間のためにもしっかり生きてよ。」


「…だから、もう疲れたんだよ。」



そんなこと、お願いだから言わないで…。



「ずるいよ…。」


「知ってるよ。」




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