ある夏の物語
あたしはカッとなって、美鶴を突き飛ばした。



尻餅こそつかなかったものの、美鶴は驚いている。



「わかってない!
美鶴は何もわかってない!」


「…何をわかっていないの?」


「自分がずるいってこと。
どれだけあたしを掻き回して、放置してるかってことも!」


「俺が郁を掻き回す?」



そうだよ、自覚ないの?



「このままさよならなんてしないから!
あたし達の関係、あやふやなままになんかしないんだから!」


「俺達の関係?」



くすっと、美鶴は笑った。



どうして笑う?



子ども扱いをされた感じがして、むっとした。



「もう十分わかってるかと思ったんだけど。」


「わかんない。」


「キス、したのに。」


「だから何よ。」



挑発的に言い返すと、はたと美鶴は面食らった顔をした。



「え、だからって?」


「まさか、キスくらいで好きだって言ったつもりでいた?」



どうやらそうらしい。



違うの?と美鶴は困惑顔だ。



「だいたい、そのつもりでいたなら、もう少し態度変えなさいよ!
学校で会っても普段と変わらなかったし、あれからキスどころか手をつなぎもしないし!」



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