ある夏の物語
それでわかれってほうが無理があるのよ!



美鶴は不満そうに顔を歪めた。



「じゃ、郁は俺の気持ちわかってなかったんだ?」


「当たり前でしょ?
あのね、もう少し…!」



言葉を最後まで紡がせてくれなかった。



美鶴は驚くほど俊敏にあたしを抱き寄せ、キスする。



悲鳴をあげる暇もなかった。



それどころか、息をする暇さえも。



情けなく甘い声を上げ、あたしは腰を砕けさせる。



美鶴は見かけに似合わず、力強くあたしを抱き抱え、それでも唇を離さない。



「これで、好きって言ったことになる?」



あたしが今、物を言える状態じゃないことをわかっていて、美鶴は問う。



あたしはせめてもの抵抗で、美鶴を睨みつけた。



「…言葉ではどうしたって言わないのね。」


「うん、消えてしまう言葉なんかいらないでしょ。」



勝手なことを。



「それでも言葉でもつたえないと、逃げるわよ。」



む。



そんな声が聞こえたような気がした。



美鶴は明らかにムッとした顔をして、もう一度あたしの唇を塞ぐ。



ちょ、ちょっと待って…!



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