ある夏の物語
「俺ね、どうして死のうとしたのか、今わかんなくなってきた。」


「…へ?」


「なんか、郁のこと、思ったよりも好きだったみたい。」



…は?



驚きのあまり、涙が止まった。



情けない顔、と美鶴は笑って、あたしの涙を拭う。



「今、あんたなんて言った…?」


「ん?」


「死なないの?
生きるのよね?」



少し考え、美鶴はこれまた他人事のように「たぶんね。」と言った。



なんなのよ、それ…。



結局、どうなるの?



「美鶴?」


「なに?」


「これからどうするの?」


「考える。」


「何を?」


「生きること。」



ほんと?と訊くと、美鶴はゆっくりと頷いた。



よかったぁ…。



「約束よ?
考え、変えたりしないでよ?」


「うん。
っていうか、もしかしたら俺、死ぬ勇気なかったかも。」



さっさと家で死なずにこんなとこまで来てたしね、と美鶴は自嘲する。



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