ある夏の物語
高校二年の冬。
彼はなんの前触れもなく、あたしにキスをした。
その日は雪が降っていて。
風もそこそこ強くって。
自然と身を寄せあう、そんな日だった。
その日、美鶴は担任に『どうしてそう協調性がないんだ』とみんなの前でお叱りを受けて落ち込んでいて。
道端の公園で、寂しげに座っているのが痛々しくて、あたしは思わず彼に歩み寄ったんだ。
言葉はいらなかった。
足音に気付いて顔を上げた美鶴は、寂しげに笑んだ。
元々、色白だった顔が寒さでさらに白くなっていたのを覚えている。
「協調性って、なんなのかな…。」
ポツリと美鶴は言った。
そう言われて改めて考えてみると、咄嗟に答えは出なかった。
なんでもかんでも友達と一緒、というのはよくありがちな話だが、それが決して協調性を保っているというわけではない。
そして、いつも飄々としていて人と一線を置いている美鶴が協調性に欠けているとも言いきれない。
だいたい美鶴は、人に深入りしようとはしないが、自分勝手な行動をしているわけではないのだ。
だから、あたしは少し考えた後、素直に思ったことを口にした。
「美鶴はさ、協調性がないわけじゃないよ。」
「郁(カオル)は俺のこと知ってるからそう言ってくれるけど。」
「じゃあ、美鶴のいうところの“俺のこと知らない人”の言うことを信じるんだ?」