ある夏の物語
いつも冷静な態度を崩さない。



叱られても一向に堪えた様子を見せず、優雅に去っていく。



髪も長髪で栗色、そのうえウェーブがかかっている。



無口で態度は余所余所しいくせに、女子には人気がある。



面白くない要素が盛りだくさんだった。



「郁は、大学進学なの?」


「うん。」


「看護希望だったね。」



自分のことを聞かれると必ずすっとぼけて誤魔化すくせに、あたしのことはきっちり覚えている。



あたしは美鶴のこと知らないのに、ずるい。



あたしはふくれっ面で頷いた。



「俺が入院したら、郁が面倒見てよ。」


「いやよ、病院なんか来ないでよ。」



すぐに壊れてしまいそうな、脆そうな美鶴。



冗談に聞こえなかった。



雪はしんしんと降り積もって、地面を白に染めていく。



あたしは地面に足形をつけて遊んでいた。



「郁ってさ。」



突然、美鶴は言った。



「うん?」


「なんか、俺を置いて遠くに行くよね。」


「はぁ?」



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