ある夏の物語
あたしは勢いよく頷いた。



哀しそうな美鶴の頬に、雪が張り付いた。



それを拭おうともせず、美鶴はあたしを見つめていた。



「…それは、郁がそう思ってるからじゃないの?」


「あたしが?」



あたしは一瞬、美鶴が言ったことが信じられなかった。



あたしがそんなこと思ってるとでも?



「信じらんない。」


「かお…。」


「馬鹿じゃないの。
あたし、美鶴にそんなこと言われるなんて思ってもみなかった…!」



あたしが美鶴に対してこんなに怒ったのは、あれが初めてだったと思う。



もう何も話したくないと思ったのは、あれが初めてだったはず。



あたしは美鶴の顔を見もせずに、勢いよく立ち上がって背を向けた。



怒っているのに、胸が痛かった。



泣き出したいほど、つらかった。



あれは、怒りというより絶望だった気がする。



郁、と美鶴が立ち上がる音がした。



いつもなら、美鶴が発する「カオル」という音に立ち止らないなんてことはなかったのに。



あたしは速度を速めた。



帰って、気持ちを整理したかった。



< 7 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop