ある夏の物語
そして、あたしの頬を愛おしそうに撫で、そっと唇を重ねた。



抱きしめられたときは頭が真っ白になったのに、キスされたときは妙に冷静だった。



「嫌がんないんだ?」



悪戯に問う美鶴の声が、耳にこそばゆかった。



どこで覚えたのか、美鶴のキスは上手かった…と思う。



というのも、あたしのファーストキスは奴だったからだ。



後にも先にも、美鶴だけ。



だから上手か下手かなんてわからなかったけど、あたしの脳はショートして、何も考えられなくなった。



そしていつの間にか、あたしは美鶴の制服に掴まって、身体を預けていた。



今考えたらよくもまぁ、公園のど真ん中でそんな恥ずかしいことを堂々とやれたものだと思う。



でも、それくらい気持ちよかった。



一通りあたしは美鶴に口内を堪能された後、ようやく身体を解放された。



恐る恐る目を開けると、いつもは透き通るくらいに白い美鶴の頬がうっすらピンクに上気していた。



きっと、あたしもだっただろうけど。



そこから言葉は一言も交わさなかった。



美鶴はあたしの手を引いて歩き出し、それぞれの家へと続く道で別れた。



別れ際、美鶴が熱のこもった目であたしを見て微笑まなかったら、さっきの出来事は夢だったんじゃないかと疑うくらい、あたし達は愛の告白らしきものを交わさなかった。


















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