紳士的なLady*Another
これは多分、壮紀が一生懸命考えて出した答えだろう。
「今は恋人にはなれない」。
その言葉に、やっぱり落ち込んでしまう。
「鈴音」
「何?」
振られた後にのしかかる、重たい敗北感と悲しさをひしひしと感じている私に、言葉をかける。
「今は無理だけどさ、俺、ちゃんと鈴音を大事にしてあげれるようになるから」
「うん」
「この前みたいに、勢いで鈴音を傷つけることは、もう絶対しない」
「……ありがと」
固く固く、壮紀は約束してくれた。
傷つけないとか、大事にするとか、今の私と壮紀には、まだ難しいかもしれない。
今の私たちには、もう少し大人になるための時間が必要なんだ。
「壮紀」
「ん?」
だから今は、約束だけ。
「卒業式の日に、もう1回告ってもいい?」
そう言った途端に、顔を赤くさせて「はぁ?!」なんて言われた。
「その日まで、ちゃんとお互いのこと知っていって、笑って過ごせれば良いの。だから、卒業式まで、待ってて?」
自分ながら、身勝手すぎる約束だ。
その身勝手さを有効活用できるのは、今この時だけだから、問題ないよね?
「その時は、俺から告るから」
「本当に?」
「約束」
そう言って、目の前に小指を差し出す。
「約束だからね」
念押しをして、キュッと小指を絡める。
……一瞬だけ、小指に赤い糸が見えたのも、私の身勝手さ故?
▼羽賀鈴音の場合 Fin▼